「真摯さ」という誤訳

( メルマガ【アモリ通信033:真摯さという誤訳】の
補足資料として、
【ドラッカーと論語】  安富歩著 東洋経済新報社の
 p232からp244の要点をまとめたものです)


かくしてドラッカーも孔子も、常識人に愛好されることになる。
常識人の常識を守りつつ、しかもその常識を揺るがす、という
極めて高度な技が展開されるのである。


「もしドラ」の主人公がハラハラと涙を流したのは以下の文章
である。

① 「だがそれだけでは十分ではない。根本的な資質が必要
   である。真摯さである」


これは原文をかなり短くしてある。
原文は以下の通りである。

But when all is said and down,developing men still requires a
basic quality in the manager which cannot be created by
supplying skill or by emphasizing the importance of the task.
It requires integrity of character.

直訳すれば次のようになる。

② しかし結局のところ、人を成長せしめるにはそれ以上に
  経営者にある根本的な資質を要請する。
  それは、技法を提供したり、その任務の重要性を説いたり
  することによって創出しえない。
  必要なことは、人格の統合である。

念のため、野田一夫…(中略)・・・上田惇生訳の日本語訳
(中略)・・・では次のように訳している。

③ しかし、結局のところ、人材を開発するには、ある根本的
  な資質が経営管理者に要求されるのである。
  この根本的な資質とは、技能を学び取ったり、課題の
  重要性を強調したりして創出できるものではない。
  それは、人間としての誠実さである。


②と③は明らかに①とかなり違っている。

"integrity  of  character"の訳は
   ①  真摯さ
   ② 人格の統合
   ③ 人間としての誠実さ

日本語には"integrity"の適切な訳語がない。
辞書には「誠実さ」という訳語が出ている。


「誠実」と「真摯」を「大辞林」で引いてみると

誠実:偽りがなく、まじめなこと。真心が感じられるるさま。

真摯:まじめでひたむきなこと。事を一心に行うさま。


前者(誠実)は「人格」に関することであるが、後者は
「仕事の取り組み方」に関することだと私には思われる。

上田氏がわざわざ、"character"(=人格)を訳さないで
無視したのはそのためである。


ドラッカーは、「手が触れられていない、欠陥のない、
完全な、統合された、一貫した人格」が経営には必要
とされる、と言ったのである。


考えてみれば良い。

日本の組織において、もし誰か本気でドラッカーを
読んだら、ドラッカーの教えに従い、自分の人格の完全性
と統合と一貫性とを守り、思想・信条・原則を重視して
仕事をすると、いったい、どうなるだろうか。

その人は、ほぼ確実にトラブルの連鎖を起こし、
総スカンを食らうことになる。

そして「わがまま」だと言われ、袋叩きにあって窓際へと
放逐されてしまうだろう。


日本の組織において成功をおさめるには、自分自身を
さておいて、「立場」にふさわしい振る舞いをする必要
がある。

いやむしろ、自分自身の考えや信条や信念や原則や
関心や興味を、積極的に棄てて掛かることが、何よりも
大切である。

そうやって、自分を捨てて仕事に一心に取り組む人々を
「真摯」だというのである。

これが日本社会の立場的イデオロギーであり、
そうしなければ、人々の尊敬を集め、経営者として
成功することはありえない。

そういう真摯な立場主義者の集積によって初めて、
日本の組織は機能する。

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以下は、【アモリ通信033:真摯さという誤訳】の本文

 

AAAAAA さん

こんにちは。

異変を気づかせる経営コンサルタントの福島清隆です。


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本日のテーマは「 ”真摯さ”という誤訳 」です。

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 そしてこれは「誤訳」であるとともに、上田氏の
「イノベーション」であった。
このことがなければ、日本でドラッカーがこれほどまでに
愛好されることは、決してなかったと私は思う。

   
  「ドラッカーと論語」 安富歩   P238
  
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かなり躊躇いましたが、今回は相当に背伸びして、
上記の著書のP232からP244までの要点をまとめます。

我が家号「SILマネジメントサポート」の「I]
は「integrity」の最初の「i」です。

これまで、「integrity」= 「真摯さ」
分かりやすく「誠実さ」ということにしておこう。
と、考えていました。

「学者脳」の方にはそんな安易な解釈は許されない
のでしょう  (苦笑)


内容が難解なので、ここでは簡潔に記すのみにします。


別途、
https://www.sil-ms.jp/56014.html
をご確認いただければ幸いです。

 

ドラッカーの翻訳は、「上田惇生」(あつお)氏のものが
現在では一番出回っていると思います。

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「それゆえ、上田氏が「真摯」と訳したのは、単純な誤訳
と言うことはできない。

それは意図的な意味のすり替えである。

上田氏は、アメリカ社会とは全く異なった日本社会で、
”integrity of character"を要求するようなドラッカーを
広めることはできない、と直感したのであろう。

ドラッカーをヒットさせ、その思想を広めるための
イノベーションがこの誤訳であった。」

 


「とはいえ、上田氏が見抜いたように、この日本社会に
”integrity   of   character "という極度に西欧的な
倫理に基づいたドラッカーは、機能しない。

文化的基盤が違いすぎるのである」

 

「論語」に基づくドラッカーへ。

 

「そしてドラッカーのサイバネティックな倫理観は
「論語」の倫理に近い。というより、その影響下に
 形成された。

 というのが私の考えである。


 その倫理の根幹が「仁」である。」

 

「組織のマネジメントを目指すことは、それ自身が、
 最終的に東アジアの伝統の古い基本的な価値たる、
 仁義礼智忠信孝悌を、再編成した基礎の上に、新しい
 秩序が現れることを示している。

 ここにこそ、日本の、そして東アジアの、ひいては
 世界の未来がある、と信じるのである」

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上記URLと本文だけではまだ不十分と思われますが、
ご関心のある方は、同書のP232からP244を熟読いた
だければ、内容の深さをご理解いただけると思います。


それはそれとして、英語圏がnativeで、在住の日本文化
にも造詣の深い、例えば、ロバート・キャンベル教授
のような人物に、「integrity」の訳語として、何が
相応しいか、聞いてみたいものです。

 

AAAAAさんは、ドラッカーと論語に相通じるもの
があると聞いて、納得されるでしょうか。


今回のアモリ通信は私にはちょっと難し過ぎましたが
それでも、ドラッカーと論語は無理のない範囲で、
生涯学び続けようと思っています。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

AAAAAさんの幸運な日々を祈念します。








 
 
 
 

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