痛風と尿酸値

マラソンでも痛風に 尿酸値はビール以外でも上がるという真相

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00283/112000238/

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痛風といえば、「ビールが好きでメタボ気味の男性がなるもの」と思っていた酒ジャーナリストの葉石かおりさん。知人から「マラソン後に痛風になった」と聞き、尿酸値を上げて痛風を引き起こす要因にはほかにもあるのではないかと疑問を持ちます。そこで、痛風や高尿酸血症に詳しい、山王メディカルセンター(東京都港区)院長で、同リウマチ・痛風・膠原病センター長である山中寿氏に、痛風のリスクについて詳しく話を伺いました。

マラソンのように激しい運動をすると、尿酸値が上がって痛風の発作が起こる可能性が高くなるという(写真=Iuliia Sokolovska/stock.adobe.com)

マラソンのように激しい運動をすると、尿酸値が上がって痛風の発作が起こる可能性が高くなるという(写真=Iuliia Sokolovska/stock.adobe.com)

 中年以降の酒好きに多いのが、「痛風」だ。

 「風が吹くだけで患部の関節が痛む」と俗にいわれるくらい、激しい痛みに襲われるのがその特徴だ。

 筆者の周囲の酒好きにも、結構な確率で痛風を抱えている人がいる。それでも皆、懲りずに、尿酸値を下げる薬を飲みながら、酒を飲んでいる

 昔から「ビールは痛風に良くない」といわれてきた。痛風を予防するために、ビールは控えめにしているという人も多いだろう。

 そして、痛風といえば、失礼ながら、下腹ぽっこりの男性がなるイメージがある。つまり、メタボリックシンドローム(メタボ)が痛風のリスクを上げるというわけだ。

 ところが、ここにきて耳を疑うようなことを聞いた。それは「マラソンを走ったら痛風デビューしてしまった」ということだ。彼はメタボとは程遠いスリムな体形。ランニングは、東京マラソンに出場するくらいハードに行っているという。

 そんな彼が痛風の発作に襲われたと聞いて、かなり驚いた。

 酒好きにはおなじみの痛風にも、まだ知らない一面があるのかもしれない。多くの痛風持ちの酒飲みのためにも、ここで痛風の知識をアップデートしておかねばならない。

 今回は、山王メディカルセンター(東京都港区)院長で、同リウマチ・痛風・膠原病センター長である山中寿氏に詳しく話を伺った。

最初の痛風の発作は9割が「足」

 先生、まず痛風とはどのような症状を指すのか、教えてください。

(図=sasami018/stock.adobe.com)

(図=sasami018/stock.adobe.com)

 「急性関節炎の代表格、それが痛風です。正式には痛風関節炎といい、患者は98%が男性だといわれています。ある日突然、多くは足の親指あたりの関節に急に痛みが起こり、赤く腫れ上がります。それは、まさに風が吹いても痛いほどの激しい痛みで、数日から1週間で症状は治まります。その後はしばらくの間、無症状ですが、そのままにしておくと、年に一度くらい症状が出るようになってしまいます」(山中氏)

 最初の発作は、足の親指の付け根が最も多く、くるぶしやかかと、足の甲などを含め、9割以上が足に起こる。これは、足が冷えやすいこと、そして物理的な刺激を受けやすいことと関係しているという。

 治療せず放置しておくと、痛風の発作が慢性的なものへと移行することもある。「発作が出るスパンが、年に一度から半年に一度になり、それから3カ月、1カ月という具合に、だんだんと短くなり、頻度が増えていくのも特徴の一つです」(山中氏)

 激しい痛みが、予告もなく起こるなんて恐怖でしかない……。しかも、放置すれば発作が頻繁に起こるようになるかもしれないなんて。
 

尿酸の結晶が関節の中で激しい痛みを引き起こす

 ではいったい、どのようなメカニズムによって、痛風は起こるのだろうか?

 「関節の中に尿酸が過剰にたまるのが痛風のメカニズムです。尿酸の血中濃度である尿酸値が長い間7.0mg/dLより高い高尿酸血症の方に、痛風の症状は表れやすい傾向があります。尿酸は、新陳代謝の過程で生じるプリン体から生成される老廃物で、いわば“エネルギーの燃えカス”。尿酸は誰でも持っていて、ある程度の量は体に必要なものです」(山中氏)

 通常、体内では尿酸は一定量に保たれ、多くなると尿中へと排出される。しかし何らかの原因で体内の尿酸値が高くなると、血液中に尿酸が余り、血液に溶けにくい尿酸は、やがて体内のナトリウムと結合して結晶化する。「この尿酸ナトリウムの結晶こそが、痛風特有の痛みの根源なのです」(山中氏)

 女性は、血中の尿酸の濃度が男性に比べて低く、痛風になりにくい。これは、女性ホルモンのエストロゲンに、尿酸の排泄を高める働きがあるためだ。そのため、閉経後は、エストロゲンが減り、尿酸値が上がって痛風の患者も増えてくる。

 尿酸ナトリウム結晶の顕微鏡写真を見ると、先端が針のように尖っていて、いかにも痛そう。こんな結晶が関節の中にあったら、それはもう痛いだろうということが容易に想像できる。

痛風は遺伝要因が大きいことが分かってきた

 それではなぜ、尿酸値は上がってしまうのだろう? いくつかの原因を山中氏に教えていただいた。

 「遺伝要因と環境要因の2つがありますが、痛風の場合は遺伝要因の影響が非常に強いことが分かってきました。家族や親戚に痛風歴があると、痛風を起こしやすいといわれています。すでにいくつかの病因遺伝子が分かっており、中でも尿酸トランスポーター遺伝子『ABCG2』が主要な病因遺伝子であることが判明しています。この遺伝子に変異があると、腎機能が低下し、それによって尿酸を尿中へ排出する働きも低下してしまうのです」(山中氏)

 痛風の患者の8割は、ABCG2に変異があると考えられているそうだ。

 そして、遺伝要因と並んで関わってくるのが、環境要因である。

 「もともと、痛風は生活習慣病の側面が強いといわれています。環境要因には大きく5つありますが、まずメタボ。内臓脂肪の増加に伴って尿酸値は上昇し、減量して内臓脂肪が減れば尿酸値は下がる傾向にあります。そして、2つ目は、プリン体の多い食物をたくさん摂取することです」(山中氏)

 プリン体といえば、レバーや白子などに多いイメージがある。「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」によると、魚の干物にも多いことが分かる。

「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」第3版より

「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」第3版より

 「プリン体は、遺伝子を構成する核酸の材料です。細胞のDNAやRNAの半分はプリン体からできています。つまり、細胞をたくさん含む食材ほど、プリン体を多く含むことになります。干物だって、乾燥して細胞がぎゅっと詰まっていますよね」(山中氏)

 例えば、いくらとたらこであれば、粒が小さく細胞の数が多いたらこのほうがプリン体の量は多くなる。さらにいえば、目で細胞を見ることができないレバーのほうが、もっと多いというわけだ。

食品に含まれる「細胞」の数が多いほどプリン体は多くなる

食品に含まれる「細胞」の数が多いほどプリン体は多くなる

「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」第3版より (イラスト=「いくら」Mai/stock.adobe.com、「たらこ」パプリカ/stock.adobe.com、「鶏レバー」yokoobata/stock.adobe.com)
 

ちなみに、きな粉は100g当たり170mgほどプリン体を含んでいて、意外と含有量が多い。ただ、冷静に考えれば、「きな粉を一度に100g食べるなんて現実ではあまりありませんよね。含有量を見るときは単位に注意が必要です」(山中氏)

 また、山中氏によると「コレステロールの多いものと、プリン体の多いものが混同されている傾向もある」という。イメージだけで食べ物を選ばないほうがいいのだ。

 例えば、コレステロールの多い食品といえば、卵(鶏卵)がある。しかし、卵は、細胞の数でいえば「1個」だけ。つまり、卵のプリン体含有量はほぼゼロなのだ。

「アルコール」と「激しい運動」は尿酸値を上げる

 さて、プリン体というとビールのイメージがあるが、やはり酒も痛風の原因になるのか、ここで確認をしておきたい。

 「はい、環境要因の3つ目は、アルコールです。お酒で痛風というと、ビールを思い浮かべる方が多いと思いますが、尿酸値を上げるのはお酒に含まれるプリン体だけではありません。アルコールそのものにも尿酸値を上げる作用があるのです。居酒屋で『飲むんだったら、ビールよりプリン体ゼロの焼酎がいいんだよ』と言っている方を見かけますが、医師にしてみれば『アルコールだったら、どれも注意しなきゃ』と言いたくなります」(山中氏)

 尿酸値の高い酒好きにとっては、耳が痛い指摘である。「アルコールそのものが尿酸値に関係している」となると、逃げようがない。

 「アルコールは体内のエネルギー源となる物質ATP(アデノシン三リン酸)の分解を促進します。ATPが分解されるとプリン体が増え、最終的に尿酸として体内に蓄積してしまうのです。お酒のつまみとして、イワシや白子、あん肝、レバーなどプリン体が多いものを食べる人もいますよね。また、環境要因の4つ目は脱水なのですが、アルコールにも脱水作用があります」(山中氏)

 脱水になると、体内で尿酸の濃度が高まり、痛風のリスクが高くなる。アルコールの作用に加え、脱水も加わるとなると、痛風持ちにとっては命取りと言えよう。日本酒造組合中央会も推奨しているように、酒を飲む際はそれと同量、またはそれ以上の水を一緒に飲むのが正解のようだ。

 「そして、環境要因の5つ目は、激しい運動です。意外と知られていませんが、激しい運動をすると、一時的に尿酸値が上がります。これは運動の際にATPが使われ、その分解によって尿酸が生成されるからです。つまり運動量が多いほど、尿酸値が上がりやすいということになります。特に筋トレなどの無酸素運動は短時間でATPが使われるので、度を越えた運動は禁物です」(山中氏)

 運動というと健康的で、メタボを予防する代表格のように思っていたが、度が過ぎると尿酸値を上げることになってしまうとは。そういえば冒頭で述べた彼の場合も、フルマラソン後に痛風の発作が起きたという。何事においてもさじ加減が大事なようだ。

 ちなみに、腎機能が低下すると、尿酸を体外に排出しにくくなるので、尿酸値を上げる原因につながるという。

痛風の起きる体は「赤字の会社」と同じ

 ここまでの間で、痛風のメカニズムと要因について理解することができた。では痛風を予防するには、どうしたらいいのだろう? 一度、痛風が起きてしまった場合でも、次の発作を予防するためにできることはないだろうか。

 「私はよく痛風を会社の経営に例えるのですが、痛風はまさに会社で言うところの損益の赤字です。尿酸値の基準値は7.0mg/dL。この数値を超えているのに放置していると、やがてどうにもならなくなり、痛風の症状が表れます。会社の場合も、赤字を放置して、長くなればなるほど損害が出ますよね。痛風の場合もまさに同じです。会社で赤字が出たら、なるべくすぐ、銀行から融資を得たり、収支を見直したりするなどの経営努力をするように、痛風もまた、発作を事前に抑えるための努力が必要なのです」(山中氏)

 山中氏の的確な例えに深くうなずいてしまった。体にとって“赤字”ともいえる痛風の発作は、努力して予防するしかないのだ。

 それでは、尿酸値を上げないための具体的な方法と、高尿酸血症の治療法については、次回話を伺っていこう。

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山中寿(やまなか ひさし)氏
山王メディカルセンター院長、同リウマチ・痛風・膠原病センター長

山中寿(やまなか ひさし)氏1954年、滋賀県生まれ。1980年、三重大学医学部卒業。1983年、東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター助手。1985~1988年、米国スクリプス・クリニック研究所研究員。東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長などを経て、2019年5月より山王メディカルセンター リウマチ・痛風・膠原病センター長。東京女子医科大学客員教授、国際医療福祉大学医学部教授。

 

 

 
 
 

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